paradox constant webmagazine

5seconds x nf3nf6

PAERADIGM FACTER

2011-02-19

nogi01.jpg


今は誰もいない。

しかしいずれ必ず誰かが来る。
それを知っている空間が好きである。
祈るように飢えるように人を待つ。
そんな生々しい空間が好きである。
そういう空間は一見、とても素っ気ない表情をしている。




pit北/区域
『東京裁判』

0102.jpg


 2階、と呼んで良いのだろうか。
あの場所から空っぽの舞台を見おろしているうちに、上からの役者の姿が見えてきた。5人の間を忙しく行き来する資料やメモは、2階からの視線を意識した結果である。


しかしなぜ、資料が行き来するのか。なぜ、メモを渡すのか。この「なぜ」を追いかけてゆくと思わぬものと出会える事がある。


メモを渡す人間はメモを記す人間であり、なぜ彼は仲間のアシスト役を務めているのか。
なぜ、自分の発言を抑えているのか。それなのになぜ、この場にいるのか。


柳瀬秋午という役は、このpit北/区域で生まれた。




ザムザ阿佐谷
『HIDE AND SEEK』

DSC_0192.jpg 白い壁。木の柱。板張りの床。見上げれば天井には太い梁。靴を脱いで入場というザムザ阿佐谷は和風劇場。

乱歩、横溝、久作とくれば和風でしょう、というシンプルな理由でこの劇場を選んだ。
コンクリート剥きだしの壁の前では、和装も色気がなくなってしまうではないか。

とは言いつつも。私は結局、舞台の壁をすべて黒い布と紅い布で覆ってしまった。あの芝居には、どうも直線が似合わないのだ。

黒い布と紅い布で、私は堂々と女性器を表現させて頂いた。もう少しだけ紅い布を広げてやれば良かったと、実はこっそり後悔している。


よし、今度こそ。




OFFOFFシアター
『三億円事件』再演

DSC_0047.jpg

狭い劇場である。当然の事ながら舞台も狭い。しかし、これに逆らってはいけない。狭い舞台は、更に狭く使うのがいちばんである。



舞台の両サイドに客席を置く。ただでさえ窮屈な思いをしている役者に、視線が両方向から突き刺さる。その圧迫感を、そのまま物語に頂戴する。

時効直前の捜査本部。そこに押し込められた捜査員たちの苛立ちや焦燥感が、狭い空間からじわりと匂い立つ。彼等の視線が絡んだり漂ったりする魅力を、存分に堪能した方もおられると思う。


これは、パラドックス定数の正しい愉しみ方のひとつである。




spaceEDGE
『怪人21面相』初演・再演
『38℃』
『ブロウクン・コンソート』


spaceEDGE、まさに神!!

この一言で済ませたいのが本音だが、そうも言っていられない。倉庫のような工場跡地のような空間に一目惚れして、早5年。上記3作品を、spaceEDGE内にある全て違う部屋で上演している。『ブロウクン・コンソート』の空間を「部屋」と表現するのは少し抵抗があるけれども。

DSC_0009.jpg


『怪人21面相』は客席の前方だけでなく、頭上にも舞台がある。客席に座ってみると、まず頭の上を移動してゆく役者の足音が聞こえる。そしてその後に鉄製の階段を降りてくる彼等の姿が目に入る、という寸法だ。コンクリートの壁と換気扇のある風景は、まさに犯人の隠れ家である。


そんな不思議空間も、隣の部屋に入ればガラリと趣を変える。白い壁とフローリングの床。『38℃』の公開講座はこの部屋で行った。


そして部屋の外に出てみれば、トタンの屋根にシャッターである。どう見ても町工場。その工場では腕のいい兄弟職人が、ネジやらボルトやら拳銃やらを削っているのだ。


spaceEDGEを語る上で忘れてはならない事がもうひとつ。すぐ側を走る電車の走行音である。『38℃』を上演した部屋以外は防音されていないので、かなりはっきりと聴こえるのだ。この音がいい。それだけじゃない。強風に揺れるシャッターが奏でる音もいい。マチネの上演中に、ゆっくりと傾いてゆく日差しもいい。思いどおりにならない音や自然光の中で芝居を創るのは、ほんとうに愉しい。


ほんとうに愉しい。これ以上の何が必要か。spaceEDGEは、私の起爆材である。




シアター711
『インテレクチュアル・マスターベーション』

元、映画館。なので、客席の椅子がとってもラグジュアリー。


映画館を閉じて劇場として生まれ変わる、と聞いた瞬間に「あ、やりたい...」と、呟いていた。この映画館には個人的に非常に思い入れがあるのだ。大好きな俳優を追いかけて、多い時は月に4度通った映画館で芝居を打てるとは何という幸福か。


こういう起爆材も、ある。

DSC_0003.JPG

木の扉が非常に多い劇場である。壁かと思ったら扉だったりする。そして、ほんの少し。本当に、ほんの少しだけ。


舞台が傾いていた。
(2009年3月時点)




三鷹市芸術文化センター・星のホール
『五人の執事』
『元気で行こう絶望するな、では失敬。』

DSC_0005.jpg

広い。愕然とするほど広い。狭い空間を狭く使うのと同様に、広い空間も限界まで広く使う。


執事が屋敷の廊下を歩き回る。高校生が学校の廊下を走り回る。


「道を歩く」ことは、広い場所でしか出来ない。だから星のホールでは道を作る。役者はそこを執拗に、歩く。走る。逃げる。追いかける。立ち止まる。振り返る。戻る。迎える。行き過ぎる。迷う。見失う。探す。祈る。望む。消える。そして、踊る。星のホールには迫りもある。あの迫りはぜひ、使った方がいい。


愉しいよ。




恵比寿site
『蛇と天秤』

DSC_0010.JPG

凶暴な白である。あの白の閉塞感、圧迫感は、少し怖い。『2001年宇宙の旅』のラストシーンを思い出す。あの部屋では、蛍光灯の灯りも凶暴に映る。冷たく瞬くように明るくなり、そして消える時は一気に闇に突き落とされる。暗転の余韻、などというものは一切ない。


『蛇と天秤』は『38℃』の改訂版である。『38℃』に比べて、格段に軽く、冷たく、不気味になった。劇場に、助けられたのだ。


お手洗いに行く途中、とても素敵な車を見ることが出来る。おそらく劇場主の愛車であろう。お手洗いに行く度に、唸ってしまう。



【番外編】

ベニサンピット


絶対に、この劇場で、芝居を打つ。


どうしても捨てられない決意があってもいいじゃないか。




シアターコクーン


この劇場で、一ヶ月間の、劇団公演を打つ。至極真っ当な決意があってもいいじゃないか。




【あとがき】
本当につらつらと筆の向くままに、書かせて頂きました。2007年に劇団化して以降、お世話になった劇場です。その割には「狭い」だの「傾いている」だの言いたい放題ですが。ごめんなさい。劇場主さま、劇場職員の皆さま、あの時はワガママを聞いてくださって本当にありがとうございました。これからも出入り禁止にならない程度に、ワガママを言い続けることと思います。


そして、その空間、その劇場で上演するのがいちばん映える、という作品を創ります。
どうぞよろしくお願いします。


野木萌葱


コメント(2)

ベニサン閉じちゃいましたね。残念。いつかまたそういう素敵な空間に出会えるといいのですけれど。

一目惚れだったんだよね、ベニサン。あれは惚れたなあ。惚れ抜いたなあ。惚れすぎて遂に手が出せなかったんだよね、コンチクショウ。