paradox constant webmagazine

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PAERADIGM FACTER

2011-02-22
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パラドックス定数が劇団になる前から、かれこれ六年間、計十二本の芝居に出演し十人の男を演じた(内二本は再演で同じ役を担当)。今回、いい機会なので出演した時間軸に沿って彼等の事を振り返ってみたいと思う。


一人目  紺野建築士

「大正八年 永田町」にて。
国会議事堂を設計した建築士チームの一人。眉毛と足の爪先が非常にうるさい男だった。パラドックス初参加で緊張していて無意識に妙な力が入ってしまったのだろう。「眉毛がうるさい」というダメ出しをくらったのは初めてだった。
彼に関して思い出せる事は少ない。下の名前も思い出せない。台詞に「ペデスタル式」という専門用語がでてくるが、「ペデしゅタル式」と噛んだ事くらいか。



二人目  飛鳥井薫

02.jpg「38℃」「蛇と天秤」にて。
アスカイ  カオルと読む。主宰曰く「アスカだかカヲルだか某アニメキャラみたいな名前だね」...うん。
二度演じた彼は初演では研修医だったが再演では医局員になっていた。少しは成長したかと思いきや、医局という組織の中で上司の顔色を常に伺う姿勢は変わらず。自分の正義心と保身の間で身動きが取れず、何故か人知れず首の筋を違え苦しんでたらしい。







三人目  ルイス・ブニュエル

02-2.jpg「プライベート・ジョーク」にて。
実在の映画監督の半生を演じた。彼は人と一緒にいるのが好きな男だった。プライドは高いがきっと寂しがり屋だったんだろう。
ロルカやダリとダベっているのがただ楽しくて、後から加わるアインシュタインとピカソのアダルトチームの刺激的な話を聞くのがとても好きだった。
劇中ロルカ役の植村氏に「...............殺すよ?」といわれ何故かゾクゾクッとしたのは内緒。
パラドックスにしては割とマイルドな芝居だったが、この芝居の空気感が自分はとても好きだったなぁ。




四人目  星之宮衛
0138.jpg「東京裁判」にて。
ホシノミヤ  サカエと読む。マモルではなくサカエ。
初演では弁護士だったが、再演では一般公募で弁護団に加わる外交官志望の男へと設定が変わった。
彼は法廷に向かう階段で入場するまで(開演前)ずっと吐きそうになってたなぁ。きっとプレッシャーに弱いんだろう。再演では英語の台詞もあったが、外交官志望にしては下手くそな英語であった。猛反省。




五人目  明智小五郎
DSC_0221.jpg「HIDE AND SEEK」にて。
気に障ると書いてキザと読む。彼は乱歩作品で少年をうまいこと使う名探偵である。この芝居では作品世界では飽きたらず、現実世界にまで出てきてしまう。全身白のスーツにハットで、鼻につく喋り方と振る舞いがやってて楽しかった。怪人二十面相とのバトルもあり。
自分のアイデンティティーを執拗に求めて作家にすがりつく様が幼児のようだ。だんだん幼児退行していくのも楽しかった。

六人目  宮内晃平

「三億円事件」にて。
背中に傷を負った刑事。青白い顔に黒縁眼鏡。彼の眼鏡は一日中下北沢を歩き回って探した一品だが、思いの外評判が悪く「出落ち」とか「キモい」と散々な言われようだったため、二度と使われることなく今では自宅に封印。













七人目  大杉栄
DSC_0197.jpg「インテレクチュアル・マスターベーション」にて。
明治の社会主義者で口髭がトレードマーク。が、ワタクシ、髭が薄いんです...。一ヶ月半剃らずに伸ばしてもなんだか薄くて、結局眉墨で書いてしまった。公演が終わり打ち上げ明けに帰宅した朝六時、これで見納めかと涙ながらに一人断髭式をしたのはいい思い出。
全編通して37.8℃位熱があるような芝居だった。ラスト幸徳秋水が処刑され、愛用の傘だけが戻ってきたとき、ただただ哀しくて涙が止まらなかった。恐らく舞台であれだけ泣いたのは最初で最後。カーテンコールの時にバレないように垂れ流した鼻水を啜っていたが、きっと間抜けな姿だったろう。
あ、稽古中に勢い余って窓に突っ込んで割ったのは本当にトラウマになった。今でもあの稽古場に行くと窓に近づくのを躊躇う。


八人目  執事N
DSC_0234.jpg「五人の執事」にて。
彼、下っ端のくせに妙にプライドがあって除け者にされたりするのが凄く嫌いだった。
インテレクチュアルに続いて最もダメ出しが多かった。一番苦労した役だったと思う。
迷路のような広大な屋敷の中で、自分自身迷路に入ってしまったような日々だった。






九人目  永山由之
DSC_0100.jpg「ブロウクン・コンソート」にて。
彼は殺し屋の青学生。妹を殺しているにも関わらず捕まる事なく、きっと上手いことやってるんだろう。
今までやったことのない事を試行錯誤しながら楽しんでやれた役だった。暴力的なシーンでは稽古中に何度殺されると思ったかわからない。そういうのも込みで躁状態で
楽しかった。生きたまま左腕を切断され、その後射殺されるという相応な末路だったが、舞台であんな長々と悲鳴をあげたのも初めてだった。





十人目  井内勇希(出席番号1)
DSC_0027.jpg「元気で行こう絶望するな、では失敬」にて。
実名の彼は委員長である。悪ガキどもの中で正義感を振りかざす高校時代と、植物状態の妻を妊娠させるという悲壮感漂う(当人はハッピー)中年期を演じた。オープニングでジョジョ立ちを画策するも失敗。
後半は生津先生との絡みが主な出番だったが濃い時間だった。ちょくちょく井の頭公演の芝生に呼び出され自主練を一緒にやっていたが、まさか次の「蛇と天秤」でもあれだけ絡むと思ってなかったのでいい布石だったのだろう。













以上、個人的に自分の役だけ振り返ってみるという企画だったが、芝居を観ていない人にはちんぷんかんぷんだろう。すみません。
次回は弁護士だ。
日向野さん、どんなことを考え、感じるのか。
またも楽しみである。

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井内勇希

俳優。1981年生まれ。大分県出身。
2000年、劇団箱庭円舞曲の旗揚げメンバー。以降06年まで全作品に出演。
その他出演作に「高野聖」(演出:加納幸和)、「古今東西まんさい大狂言祭」(演出:野村萬斎)、「アラブ・イスラエル・クックブック」(一跡二跳)など。
2007年6月、劇団化を受けて劇団員として所属。

劇団内ではいじられ役。頼まれるとたぶん何事も断れない。
柔和なその性格は、我の強い個人が跋扈するパラドックスを中和できる唯一の溶媒である。



コメント(2)

稽古お疲れ様です。一観客として、5seconds楽しみにしております。3度生まれ変わるあの作品がいったいどうなるのか。。。

紺野さんの名前は確か「高尋」たかひろ、だったと思うぜ。二人芝居を潜り抜けた貴方が、次にどう化けるのか。愉しみにしてるぜ。ふふふ。